【番頭リレーブログ#6】ものづくりレシピ作り_後編

2016.07.21

【番頭リレーブログ#6】ものづくりレシピ作り_前編

 

さてさて、前半では私の作った「D3」について書かせてもらいました。後半は「D3」をファイナルプロジェクトとして提出したファブアカデミーと言う遠隔講座の話を書いていこうと思います。

 

ファブアカデミーとは、ファブファンデーションが開講している遠隔講義で、毎年1月から半年間をかけて、全20回毎週1つの課題を制作していきます。講義はボストン時間の水曜日AM9:00(日本時間PM11:00)に始まり、200人以上の受講者が世界中のラボからビデオチャットを繋ぎ、前週の成果発表と次週の課題に向けた講義を受けます。

 

フアブアカデミーの様子

webcam-fab-academy

 

講義内容はマサチューセッツ工科大学で開講している人気講座「How to make (almost) anything」と概ね同じくなっており、毎週の提出課題を評価委員会が査定し、パスすると修了証が授与されます。
課題は、ただものを作るのではなく、機材を利用した課題制作をどのような方法で制作したか?どこで失敗したか?などを、ウェブページにまとめ、公開することが求められています。
当然、全て英語ですし、毎週の課題には16時間以上費やすことが望ましいとされています。んー、書いただけで吐きそうですね。
しかし、5000ドルという高額な授業料を払い、過去の卒業生でもある、ファブマスターたちがサポートに入ったり、地域ごとでレビューをしてくれたりと、いろんな目や手や覚悟が関係してくるため、多くの受講者はこのロングロングジャーニーを、あらゆる体液を垂れ流しテンパりながらも逃げ出さずに卒業していきます。
卒業式は、毎年のFabLab世界会議の中で行われており、ビデオ会議で顔を合わせていただけの人たちと直接会い、話せるというのも感慨深いものでした。

 

2015年の卒業式
CLz_LysUkAAHpdW

 

今年も世界中264名、日本国内のラボからも13名の方が受講し、6月にファイナルプロジェクトのプレゼンテーションが終了しました。詳細が気になる人はこちらのページを読んでみてください。

2016ファブアカデミー

これだけの人数の受講者たちが同じ課題で制作を行うわけですから、集まる情報は膨大なものになります。うまくいったものばかりではなく失敗した事例も数多く見られるため、個人では想像すらできなかったことが知識として吸収できるということがおこり、その体験はなかなか興味深いものです。
また、研究の最先端をいく講師陣が講義やトークなどを担当しているため、そこで紹介されるファブ界隈の最新のトレンドや、技術を知れるということも大きな意味があると思います。
そして、技術の活用も環境や文化が変われば信じられないアイデアが飛び出したりもします。作られた背景を発信することで、他者の興味を強く引けることもありますし、応用として自身の制作にも活用できるインスピレーションを得ることもあります。
インターネットを介して共有された知識と、自ら体験して会得した知識では、解像度に雲泥の差があると思いますが、扱えるデータ量が増えてきているため、自身の制作の指針を決めるための根拠としては有用に扱える状況が揃ってきているように感じます。
これら全て、制作の過程が「ものづくりレシピ」的に公開されているからこそ、できることなのです。

 

さて、「レシピ作り」の話に戻りましょう。
ものづくりに限らず多くのレシピでは、こうやったらうまくいくという正攻法が書かれています。
このような場合、うまくいけば後進者が知識源として活用してくれます。
その中に、ユニークな動機や背景を書き込めば、他者を巻き込み、共感を得る切っ掛けになるかもしれません。
そして、私が一番興味を持っていることが、失敗過程が書かれたレシピから得られる知識です。
失敗した場合、「なぜ」起きたかということを考えなくては先に進みません。失敗の原因を考えることで得られる知見は、成功時よりも多くの情報を持っている場合が多く、「原因」が別の事例と繋がることにより、同じような「失敗」への対策も進みます。別の体験と紐付けが起きれば体系的な知識を育む土壌になるように感じていて、それは、記録を読むことでも起きていると考えています。これはFabLabのサイクルでいうと「共有」と「学び」の接続部分の話で、成功レシピをトレースするだけでは得難い部分を、失敗体験の共有が補っているように思えます。
そして、失敗経験から育まれる知識体系は、個人が持つものづくりに対する嗅覚に大きな影響を与えていると思います。直感的に、「これは失敗しそう。」とか、「こうしたいいのでは?」とか判断できることがあるのですが、その直感の根拠はこの部分に依存しているのではないでしょうか?
失敗を記録することで、自分の持つ知識体系を豊かに、そしてしなやかに変化するものとして位置付け、かつ他者にまで良い影響を及ぼすならば、やっておいて損はありません。
私個人としては、失敗の記録をいかに抽出するかそしてアーカイブするかということを今後の課題に「D3」の開発を進めて行こうと思っています。

 

そして、最後に皆さんに再度お願い。
「みんなでものづくりの記録取り始めましょう!」
皆さんの心に響く部分がすこしでもあれば、私はとても嬉しいです。それではさよーなら。