2014.12.14
さて、期間限定ファブラボ小豆島の2日目。紹介させていただくのは、わたくし白石です。
私は主に美術の分野で活動しており、虹を作るための装置や、スクーターを改造した二足歩行ロボなど、実際に稼働する作品を作っています。また、その作品を社会にインストールする過程や影響に興味があるため、美術館やギャラリーでの発表だけでなく、街に出てパフォーマンス行うなどいろいろとやってきました。
私は、ファブラボ北加賀屋の共同設立者でもあるのですが、”デジタルファブリケーション機器を多種多様な人たちが使えるようになった時、どのように使われていくのか、そこでは何が生まれていくのか自分の目で見てみたい!”というのが立ち上げに関わった最大の動機です。
このようなことに関心がりますので、向井さんからの「小豆島での小さな社会実験してみませんか?」という言葉には二つ返事で「面白そうですね!」と意気投合。一週間の滞在制作に向かいました。
二日目はあいにくの雨。エリエス荘から車に揺られ20分ほどで着いたのが、小豆島に来て第1回目のワークショップ会場となる池田小学校です。 小豆島の池田地域にあるこの小学校は全校生徒173名の学校です。今回のワークショップは6年生31名と一緒に「3Dスキャナー・3Dプリンターを使って人文字を作ろう」というもので、学生さんに自分のシルエットが文字の一部になるようにポーズを取ってもらい、キネクトを使って全身を3Dスキャン。そのデータをCADソフトでレリーフ状に加工・合成し3Dプリンターで出力する予定です。今年の夏に兵庫県美術館で開催させていただいた”サインラボ”というワークショップの内容をアレンジしたものです。
到着後、校長先生に挨拶を済ませ、図工室に機材を運びこみ準備を始めました。 スキャン撮影用ステージを作り、機材を配置、パソコン操作する様子を見られるように、プロジェクターを設置して準備完了。授業スタートです!
6年生が入ってくると教室はぎゅうぎゅうになりました。担任の先生や校長、視察の教育委員会の方々、記者も教室に入り、すごい熱気です。そして騒がしい!しかし、担任の先生の一声でみんなきちんと整列。津田さんからファブラボの説明や機械の説明を静かに聞いていましたが、班ごとに分かれスキャンをしますよー!と言った途端、皆元気よく制作が始まりました。
出張WS時の図工室俯瞰図
今回のお題は「いちばんをめざせ いけだっこ」。班ごとに役割を振りわけ、どのようにしたらうまく人文字を作れるか考えながらスキャンしていきます。簡単な文字は二人で並びながら、複雑なものは合成することも考えながら部分的に撮影します。椅子を使ってみたらとか、後ろから手を出してみたらとか、水を入れたペットボトルに隠れて撮ってみたらとか(水の入ったペットボトルは、キネクトから照射される赤外線パターンを透過・屈折させるため、その部分のデータは欠損します)、いろいろな工夫が溢れてきます。
キネクトでの3Dスキャンの様子。画面を確認しながら、全身を使って文字を作ります。
スキャンや合成の作業をしているあいだ、ファブラボ小豆島(仮)のメンバーは班ごとにアドバイスや、機材のデモンストレーションなどをして授業を盛り上げてくれていました。そして、全員分のスキャンと出力用データの制作を終わらせ、3Dプリンターが稼働し始めるのを見届けたところで授業終了です。
自分の体で作った形が、データとしてPCの中に取り込まれ、短い時間で目まぐるしく変化する様子はなかなかダイナミックです。このようして完成した自分の面影が残るポリゴンデータには、照れ臭さや愛着などいろいろな感情が湧いてきます。実際に自分で機材を使ってみることにより、そんな小さな感動を積み重ねていってもらえたら、ものづくりが今以上に楽しくなると思っています。
制作した3D出力用データ
その後給食に参加させてもらい、給食時間の放送で羽ばたき飛行WSの紹介、昼休みには飛行機のデモフライトを行いました。帰りがけに3Dプリンターの制作風景が見られるように玄関に機材設置たり、参加した6年生に自分がポーズをとった3Dデータのシルエットを、お土産用シールにして持って帰ってもらう準備をしていたら、あぁっっっっっという間に下校時刻です。
下駄箱前の人だかりの中、ウィーン、イーン、ミーン…と動き続ける3Dプリンターを、授業に参加できなかった他の学年の子達も食い入るように見ています。「まだできないの?」という問いかけに「まだまだだよ」と答えるとワーッとどこかに行ってしまうというくだりを十数回繰り返し、やっと2文字出力し終えたのは17時過ぎ。残りの11文字は滞在中に制作しお渡しすることになっていたので、急いで”FabBar”の準備に移りました。移動途中にビールを仕入れ、30分遅れで”FabBar@小豆島”グランドオープンです!
出力中の3Dプリンターを興味深そうに眺める
“FabBar”は2013年の瀬戸内芸術祭の作品として制作されたUmaki campで開店しました。いつもはキッチン設備や本棚、作業テーブルが置いてあるスペースに、新たにバーカウンターとデジタル工作機器を配置してお客さんを迎えます。
ファブラボはそこに関わる地域の人たちの手によってカタチがつくられます。そして、そのカタチを構成する要素のひとつとして、その土地にある資源が挙げられます。 木の多いところであれば、木材を使い、金属が手に入りやすければ、その加工方法を学ぶ。土地の資源と繋がることは、ストレスの少ないものづくりをするための一つの方法です。 小豆島は食材の豊かな土地です。オリーブ、醤油、そうめん、佃煮、お魚などなど、枚挙に暇がありません。
そして、この潤沢な食料資源を使って何かをするということをテーマの一つに据えてみませんかという提案を、向井さんからいただいていました。 デジタルファブリケーション機材を使って食材を直接加工する方法、関係するアイテムや製造過程、新たなビジネスモデルなど検討できる要素は沢山あります。食材がメディウムとなり人や物の交流が生まれれば、アイデアが連鎖して新しい可能性が見えてくるかもしれません。
“ファブラボのクリエイティブな雰囲気を作るのに一番大事なのは、いい音楽(Good Music)と美味しい料理(Free Food)だ”と言われていますが、まさにその通りだと思っています。
また、小豆島には、「作りすぎた食べ物を助けると思って食べるのを手伝ってください」という意味の”たべだすけ”という言葉があります。予算の限られるこのバーでは”たべだすけ“の仕組みを取り入れ、飲み物は有料、食事とデジタルファブリケーション機器の利用は無料。その代わり来られるお客さんに”たべだすけ”でもってこられる食材があれば持ってきてくださいというお願いをしました。
FabBar俯瞰図
初日の食材は我々が用意したものしかなく心許なかったのですが、岩ちゃん(昨日ご自宅に伺った)が新漬けを持って登場!超絶美味しいオリーブをつまみにするとビールも進みます。
ビールを飲みながら話をする中で、”オリーブを食べるときの食器”の話題が出てきました。 オリーブについてくる爪楊枝食べづらくないですか?という話の流れから改善策を考え、すぐに”試作品を作ってみよう”となるのがFabLabのよいところです。ちょうどよく3Dプリンターもモデリングソフトもデータを作れるオペレーターもバーにあります。モチーフはオリーブの葉にしようということで即スケッチを描きます。イメージが形になると意見も出やすく、話も尽きません。オリーブの葉には突然変異でハート形になるものもあるということがわかると、その情報はすぐにデザインに反映され、開発どんどんは進みます。3Dモデルのデータが完成しプリンターで出力してみようというところで、この日は閉店時間を迎えました。
オリーブ用の食器の開発以外にも、地域のお祭りで使用する宝船の相談や、オリーブハイボールなる美味しいお酒の情報など、いろいろなお話が飛び出しました。
お酒を飲みながらの話し合いはアイデアの連鎖が続きます
キッチンの持つ実験室的な雰囲気、バーの中で飛び交う思いつきのアイデア、デジタルファブリケーション機器の加工スピード、そしてウィットに富んだトークが重なり合い、気がつくとアイデアがどんどん物質化されていました。ラピッドプロトタイピングの実践ここにありという感じです。
しかし、このような素晴らしい状況は偶然できたものではありません。向井さんが、地域おこし協力隊として島に移住して1年、多様な活動をされて地盤を固めてくれていたからこそ、我々のような外部からの訪問者も大きな障害なく企画をスタートできたのだと思います。
バーで書かれたスケッチ
この日の夜もバーの会計や振り返り、明日の打ち合わせを行っているうちに、すっかり深夜になってしまいました。さてさて、長かった2日目もここでおしまい。 この先、バーでスタートしたアイテム開発はどうなるのでしょう?また、向井さんはまだまだ紹介したいものがたくさんあるようです。この続きは3日目担当の吉岡(英)さんよろしくお願いします!では、また明日。
illustration: Rie Mochizuki
Photo:Kanoko Yoshioka
Hidetoshi Yoshioka