【番頭リレーブログ#17】チームで行うアナログゲームづくり 

2016.10.07

こんにちは。番頭の吉岡です。

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私は夫と二人で「手作りボードゲームチームたなごころ」というユニットを組み、ボードゲームやカードゲームといったアナログゲームを作っています。 アナログゲームをルールから考えて、身近にある材料を用いて、時にはデジタルファブリケーション機器も使いながらゲームのコマやボードといったコンポーネントを作り、イベントに出展して、展示や試遊、販売を行ったりしています。

 

今回はファブラボを通じて出会った方と一緒に行ったゲームづくりの8ヶ月について、お話ししたいと思います。

 

【2015年6月 加藤さんからのお誘い】

それは2015年6月末に行われた、メイカーズバザール大阪 vol.2  でのできごとでした。

一緒にファブラボ北加賀屋メンバーとして参加していた加藤さんに声をかけていただきました。

「『鉄と米』をテーマに一緒にゲームを作りませんか。」

 

加藤さんは愛知県に在住ながら、ファブラボ浜松、ファブラボ北加賀屋の会員になられたり、フットワーク軽くいろいろな場所で、いろいろな人とものづくりをされている方です。 もともと農業系の専攻とのことですが農業をはじめ生物や歴史など様々な分野に造詣が深く、お会いするといろいろなお話をして下さいます。

 

普段たなごころでは、様々なアプローチでゲームを作ることを模索しています。 システムと言われるゲームの仕組みから作ってみたり、何かしらのマテリアルからゲームにできないかと考えてみたり、3Dプリンターを使ってゲームを作ってみようと考えてみたり。

今回のように何かひとつのテーマからゲームを作るということもこれまでにありましたが、そのテーマに詳しい方からお誘いを受けて、というのは初めてのことでした。

その場でぜひ一緒にやってみましょうということになりました。

最初の目標はその年9月に山口県で行われるYamaguchi Mini Maker Faireに作ったゲームを出展することです。 愛知の加藤さん、大阪のたなごころ2名、計3名の小さなチームの始まりでした。

 

【2015年7月 加藤さんからのレポート】

その日から1週間ほど経った7月上旬、加藤さんから「稲作と鉄づくりの結婚」と題した、A4にして2ページ程度のメモが届きました。

島根県、出雲地方の稲作とたたら製鉄、その二つの関わりについてのレポートでした。

たたら製鉄の話、森や気候の変化の話、農村との共存の話、神話…幾つかのトピックスが含まれた、読み応えのあるレポートでした。

ゲームの種は幾つか見え隠れしています。おもしろい!でも一度話を直接聞いて全体像を紐解く必要がありそう、というのが第一印象でした。

 

【2015年8月 第1回ミーティング in 北加賀屋】

愛知と大阪の遠隔でやり取りをしつつも立て込んでいたこともあり、加藤さんに直接会う機会が持てたのは8月後半のことでした。

加藤さんにファブラボ北加賀屋に来てもらい、「鉄と米」について詳しい内容を聞きながら、その関係を構造化していきました。

知らない時代、知らない地域の産業、環境の話を加藤さんはわかりやすく話してくださいました。

議論の中から米づくり、鉄づくり、川や森(環境)のそれぞれに背景があり、それらの関わりも相互に絡み合っていることが見えてきました。これら全てを表現しようとすると壮大な計画になりそうです。

そこで今回は全体像の中からポイントを絞ってゲームを作ることにしました。

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一番気になったポイント、それは『製鉄と森』の関係でした。

ある有名な映画で、たたら製鉄のために自然が破壊されるという描写がされているのですが、加藤さんがたたら製鉄を行っていた子孫の方から聞いたお話だと、山陰地方のたたら製鉄ではただ木を切り尽くしたのではなく、植林を行い、適度な伐採をして木々の豊かな森「里山」を維持することで必要な木材を確保していたそうなのです。 これは工業的な産業が自然との共存をしていた、とても珍しい例だというのです。

 

鉄を作るためには木材が必要、そのためには木を植えて森を作る必要がある。

また森は手入れをしないと、時が経つと木々の種類は変わっていってしまうので、適度に伐採をして森を管理をする必要がある。

「木を切って鉄を作ること」と、「森を手入れしてリソースを管理すること」のバランスが繁栄につながるというのは、ゲームとして成立しそうです。

 

そしてその日「製鉄と森」をテーマとしたゲームの概略が決まりました。

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【2015年8-9月 遠隔でのゲームの仕組みづくり】

そこからは遠隔のやり取りとなりました。

たなごころチームはゲームの仕組みを考えて、加藤さんは木の遷移を表すのに適切な木を選定してもらうなどゲームに必要なテーマの詳細を調べていきました。

たなごころで組み立てたゲームの仕組みを、加藤さんが実際の森の仕組み、たたらばの状況の目線で確認をして、そのフィードバックをまたゲームの仕組みに反映させてテストプレイをしていく。

この繰り返しによって、ゲームの仕組みは出来上がっていきました。

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(写真は初期プロトタイプ、紙と別のゲームのコマを代用して使っていました。)

 

2015年9月 北加賀屋でのコンポーネントづくり】

ゲームの仕組みが固まってくると、ゲームで使うボードやコマといったコンポーネント作りに入ります。

今回は森をテーマにしていて、木を植え育てていくということから、どうしても木材を使ったコマを使いたいと考えました。

厚みのある木材から木ゴマを切り出したい、ということでファブラボ北加賀屋のCNCルーターを使用することになりました。

12mm厚のパイン材を、CNCルーターでゴリゴリ切削してコマを切り出していきます。

一部のコマは色分けをする必要があったので、タミヤカラーのスプレー缶で塗装しました。

木ゴマ以外の薄いコインは、レーザー加工機で2.5mmのMDFを彫刻、カットして作りました。

これはYamaguchi Mini Maker Faire直前の作業となったため、たなごころ2名で2日がかりでの作業となりました。

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【2015年9月 「たたらばと森」プロトタイプ完成、Yamaguchi Mini Maker Faire出展】

まだ夏の暑さの残る9月、Yamaguchi Mini Maker Faireに出展した時点で、ゲームは「たたらばと森」という名前の1回60~90分かかる、なかなか重たいゲームとなっていました。

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ブースに来ていただいたたくさんの方に、ゲームのテーマや内容のお話をさせていただきました。

毎回メイカーフェアでは、ゲームの内容だけでなく、作り方やコンポーネントについも感想やご意見をいただけるので勉強になります。

試遊は少し時間を取らせてしまうのでなかなかお誘いできませんでしたが、それでも数名の方が会場でこのゲームを遊んでくださいました。

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【2015年9月-2016年2月 テストプレイ・リデザインの日々】

Yamaguchi Mini Maker Faire後、次は翌年2016年2月のボードゲームのイベント、ゲームマーケット神戸にてブラッシュアップしたものを出そうということになりました。

山口で実際に遊んでもらう中で、まだ要素が多すぎる、ゲーム中に停滞する、など課題がいくつか見えていました。

そこでそれぞれが知人の集まる場やイベントなどでテストプレイを繰り返し、要素を絞り、ゲームを磨いていきました。

12月には加藤さんとたなごころの3人で合宿を行い、徹夜でテストプレイをして調整を行いました。

 

ゲーム内容の改良に合わせて、コンポーネントもリデザインをする必要がありました。

これについてはデザインのデータを大阪ー愛知間でやり取りをして、それぞれの近くのファブ施設でレーザー加工機やCNCで加工を行い、作ったものを写真に撮り画像で送り合うなどして、遠隔で確認を行いました。

コンポーネントの試作については、たなごころは主にファブラボ北加賀屋で、加藤さんは名古屋のクリエイトベース金山で作業を行いました。

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木ゴマは着色する個数を増やすことになったので、初のエアブラシに挑戦したりしました。 ファブラボ北加賀屋で説明書を読みつつ恐る恐る着色をしていると、エアブラシ経験のある方が使い方を教えてくださいました。

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【2016年2月 「たたらばと森」完成、ゲームマーケット2016神戸出展】

そして寒さの厳しい2月、ゲームマーケット神戸に出展する時には「たたらばと森」は1ゲーム30分程度のすっきりしたゲームに仕上がりました。

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例年たなごころがゲームマーケットにゲームを出展する際には量産をして販売を行っていましたが、今回の初の試みとして、試遊と展示のみを行い遊んでもらった方の反応をみるという機会としました。

 

当日試遊卓ではたくさんの方に遊んでもらい、ブースでも多くの方にゲームの話をさせてもらいました。

中にはこのゲームを欲しいと言ってくださる方も数名いらっしゃいました。

しかし今の手のかかる作り方では量産ができず、遊びたい方に遊んでもらえる機会が作れません。

データ公開で自由に作れるようにすることも考えましたが、デジタルファブリケーション機器に馴染みのない方には恐らくハードルが高く、今回希望をいただいた方が作って遊んでもらうにはなかなか難しそうです。

ゲームマーケット神戸ではブースに来られた様々な方に、量産やその他の世に出す方法を相談する場ともなりました。

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 こうして「たたらばと森は」一旦完成となりました。

 

【完成までを振り返って】

今回のゲームづくり一番大きかったのは、加藤さんとの出会いでした。

これが私たちのゲームづくりをおもしろい方向に引き込んでくれました。

ファブラボのネットワークというゆるいつながりの中で加藤さんを知り、遠隔ながら以前から互いにそのものづくりや活動の情報を認識していたことが、チームを組むことに躊躇なく踏み切らせてくれました。

 

また私にとっては初めての遠隔プロジェクトでもありました。

進める中で、会って話をしたり一緒に手を動かしてみないとなんともならない場面もあり、課題もありましたが、Web上でのやり取りでもなんとか一緒に作っていくことができたのは大きな収穫でした。

互いにデジタルファブリケーション機器を使える環境にあったことも、ひとつのアドバンテージでした。

 

そしてコンポーネントについては、ファブラボ北加賀屋に大型のCNCルーターがあり、思い描いたものを外注ではなく自分たちで試行錯誤して作れたことは大きかったように思います。

 

また3人のチームと言いつつも、ありがたいことに制作やテストプレイと様々な場面でファブラボ北加賀屋のメンバーを始め多くの方に助けていただいて完成したゲームとなりました。

 

【まだまだ続くゲームづくり】

「たたらばと森」は一旦完成にはなりましたが、加藤さんとたなごころのゲーム作りは続きます。

昨年2015年8月に広げたテーマ「鉄と米」はまだその一部しか回収できていません。

次はまた2ヶ月後12月のOgaki Mini Maker Faireでしょうか。

今年もまだ骨格もできていない新しいゲームを出すべくエントリーをしました。

「たたらばと森」も持ち込む予定ですので、来場予定の皆様、よろしければ遊びにいらしてください。

 

【おまけ 2016年12月 「たたらばと森」発売決定】

ゲームマーケット神戸後しばらくして、たなごころに1通のメールがきました。

それはHobby JAPANという企業の方からで、「たたらばと森」をHobby JAPANさんから出さないかというお誘いでした。

ゲームマーケット神戸の際にブースにて「たたらばと森」を遊んで頂いていた方の中に、Hobby JAPANのゲーム開発担当の方がいらっしゃったのです。

こうしてありがたいことに、「たたらばと森」はHobby JAPANさんとのやりとりでさらにブラッシュアップされ、この冬2016年12月、Hobby JAPANさんから発売されることとなりました。

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